教えるほど、チームは受け身になる:シャインの「問いかける技術」と組織づくり

ある相談に「こうすればいい」と即答した瞬間、相手の顔がふっと曇る。良かれと思った助言が、現場を少しずつ受け身にしていく。シャインの援助論「プロセス・コンサルテーション」と「問いかける技術」から、教えない関わりと組織づくりを考えます。

メンバーから相談を受けた瞬間、リーダーの口からは「それはこうすればいい」がすぐに出てきます。助言は的確で、相手も「ありがとうございます」と笑顔で答えを受け取ります。そして、その人はまた同じ顔で答えを求めてリーダーの元を訪れます。

リーダーが良かれと思い、メンバーがありがたく受け取った助言が、チームを少しずつ受け身にしていきます。

組織心理学者エドガー・H・シャインは、私たちが「教える」ことを「問う」ことより上に置く習慣を「tellの文化」と呼びました。組織づくりでつまずくリーダーは、関わりが足りないのではなく、教えすぎているのかもしれません。

この記事では、人を支える側のリーダー、マネージャー、経営層に向けて、シャインの援助論から「教えない関わり」を考えます。


【この記事の要点】

  • 結論:人を育てる関わりの本質は、答えを渡すことではなく、相手が自分で考えるプロセスに同行すること
  • ポイント①:シャインは助言中心の姿勢を「tellの文化」と呼び、教えることが相手を受け身にすると指摘した
  • ポイント②:『問いかける技術(Humble Inquiry)』には、純粋・診断的・対決的・プロセス指向という4種類の問いがある
  • ポイント③:明日からできるのは、助言が口を出る前に「ひとつだけ問いに変える」こと

なぜ教えるほどチームは受け身になるのか?

会議で誰かが「ここが進まなくて」と口にすると、リーダーがすかさず「だったらこうしよう」と答えます。問題は片づき、その場は前に進みます。けれど同じことが続くうちに、考えるよりリーダーに持っていったほうが早いのではないか、と気づきます。

シャインは『問いかける技術』のなかで、私たちの文化が「問うこと」よりも「教えること」を高く評価していると指摘しました。答えを持っている人が偉い、という暗黙の前提です。この前提のもとでは、教えるという行為は相手を受け身の位置に置き、ときに相手の立場をそっと下げてしまいます。

逆に、問うという行為は相手に主導権を渡し、その人の知識や見方を尊重しているというサインになります。だから教えるほど、現場は考えるのをやめ、答えを渡す側と受け取る側の関係に固定されていきます。これは個人のやる気や能力の問題ではなく、関わりの構造の問題です。

同じ逆説は、研修の場でも起きています。

教えるときは、人は学ばない|コルブの経験学習が示すリーダーの仕事
「人」、「技術」、「楽しさ」の三要素で「変わる」を届けます。

教えるという行為は、学習プロセスの一部ですらない。コルブの経験学習から「教えない関わり」を掘り下げた記事です。

プロセス・コンサルテーションとは何か?

シャインが遺した仕事は、大きく三つの領域にまたがります。キャリア論(キャリア・アンカー)、組織文化論、そして援助論です。

システムを変えたのに、組織が変わらないのはなぜか:組織文化の3つのレベル
「人」、「技術」、「楽しさ」の三要素で「変わる」を届けます。

この記事の中では、組織文化の3つのレベルと、制度を変えても元に戻る理由を解説しています。組織文化を取り上げ、無意識の前提という深い層は、号令ではなく問いと対話でしか動かないと書きました。

その「問い」をどう実践するのか。手がかりが、援助論の中心にあるプロセス・コンサルテーションです。

プロセス・コンサルテーションとは:答えを与えるのではなく、相手が自ら問題を解決していくプロセスに支援者が寄り添う、シャインの援助の方法論です。

シャインは支援者を「内容の専門家」と「プロセス促進者」の二つに分けました。

「内容の専門家」は、こうすべきだという答えそのものを渡します。一方の「プロセス促進者」は、相手が自分で答えにたどり着くプロセスのほうを助けます。彼が重視したのは後者でした。人にできるのは、その人や組織が自分自身を助けようとするのを支えることだけだ、という考え方です。指示する関わりは、自分の代わりに考えてくれる依存的な相手を育ててしまう。だからこそ、内容に踏み込みすぎず、プロセスに目を向ける。シャインが40年を超えるコンサルティング経験から築いた立場です。

これは、言うほど簡単ではありません。私たち自身、ふりかえりの場でつい「次はこうしよう」と話を引き取ってしまいます。プロセス促進者でいようとするほど、自分の口を閉じておく難しさにぶつかります。

「問いかける技術」には、どんな種類があるのか?

ただ問えばいい、ということでもありません。質問の形をとっていても、それが本当の問いになっているとは限らないからです。シャインは問いを4種類に分けました。

Schein's four types of inquiry

① 純粋な問いかけ(Humble Inquiry)

相手への純粋な好奇心から、答えを自分が持っていない質問をすること。主導権は相手にあり、関係を築くことを目的とします。

② 診断的な問いかけ

相手の話の特定の点に焦点を当て、考えを一定の方向へ導く問い。「それでどう感じましたか」のように、理解を深める一方で、会話の舵はこちらが握っています。

③ 対決的な問いかけ

自分の考えを、質問のかたちに包んで差し込む問い。「そこで止めなかったのはなぜ」のように、見た目は問いでも中身は主張です。

④ プロセス指向の問いかけ

「いまの話し方で進めて大丈夫ですか」と、会話そのものに焦点を移す問い。やりとりの質を一緒に見直すために使います。

私たちがよくやってしまう失敗は、問いのつもりが②や③に化けてしまうことです。「なぜそうしたの」が好奇心ではなく詰問になり、相手を身構えさせてしまう。問いの形をとっていても、誘導や主張がにじめば、相手はそれを敏感に感じ取ります。

問いの質を決めるのは、言葉そのものよりも、その手前にある自分の状態です。だから問う前に、自分の観察・反応・判断を点検する視点が効いてきます。

この記事では、問う前に自分の内面(観察→反応→判断→介入)を点検するというORJIモデルで自己認識を高めて健全な対話を行うコツを紹介しています。

ORJIモデル:自己認識を高めて健全な対話を行うためのコツ
「人」、「技術」、「楽しさ」の三要素で「変わる」を届けます。

まとめ

教える関わりには即効性があり、それ自体はとても効果的です。けれど組織づくりの土台になるのは、答えを渡すことではなく、相手が考え続けられる関係のほうです。今日から、ひとつだけ問いに変えてみてください。その小さな間が、現場が自分で動き出すための余白になります。

参考書籍

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この記事の土台にした一冊。『問いかける技術(Humble Inquiry)』エドガー・H・シャイン著/金井壽宏 監訳(英治出版、2014年)。4種類の問いの違いが、実例とともに語られています。

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「内容の専門家」と「プロセス促進者」の違いの原典。『プロセス・コンサルテーション 援助関係を築くこと』エドガー・H・シャイン著(白桃書房、2012年)。

Kasumi Nakano

Kasumi Nakano

Software Engineer