メンバーの支援といえば1on1、という前提はありませんか?グループの力を借りる支援という選択肢もあります。本記事では、1on1とグループ支援のそれぞれで起きること、そして使い分けの判断軸を紹介します。
【この記事の要点】
- 結論:1on1とグループ支援は代替ではなく補完。テーマが「本人の中」にあるか「人と人との間」にあるかで使い分ける
- ポイント①:1on1で得られるのは本人の語り。コミュニケーションの癖や関係性は、グループの場でしか現れない
- ポイント②:グループ支援では、他者からのフィードバックからの自己理解と、メンバー同士の相互支援が生まれる
- ポイント③:いきなり特別な場を作らず、ふりかえりなど既にある場を「支援の場」として見立て直すことから始める
1on1で見えるもの、見えないもの
1on1は、メンバー支援の定番になりました。個別の事情に寄り添うことができ、信頼関係を育てられるという価値はかけがえのないものです。
ただし、1on1で得られる情報には性質上の限界があります。それは「本人の語り」からの情報であるという点です。1on1では前向きに話しているのに、会議では一言も発言しない。そんな不一致に心当たりのあるマネージャーはいませんか?
自分のコミュニケーションの癖は自分では語れません。話を遮りがちなこと、特定の相手にだけ強い口調になること、反対意見を飲み込む瞬間。こうしたことは本人の自覚の外にあるので、1on1には持ち込まれることはありません。
なぜ自分のことなのに自分では見えないのか。この問いには、古典的なモデルである「ジョハリの窓」が答えをくれます。
自己理解は、なぜ他者を必要とするのか?
ジョハリの窓とは、対人関係における自己を「自分が知っているか/知らないか」、「他者が知っているか/知らないか」という2つの軸で分類し、4つの窓に整理するモデルです。1955年に心理学者のジョセフ・ラフト(Joseph Luft)とハリントン・インガム(Harrington Ingham)が考案しました。
ジョハリの窓(Johari Window)
- 開放の窓(Open Area)は、自分も他者も知っている自分です。共有されている性格や態度で、ここが広いほど関係は風通しがよくなります。
- 盲点の窓(Blind Area)は、他者は知っているのに自分は気づいていない自分。話を遮る癖、口調がきつくなる相手、無意識の表情などがここに入ります。
- 秘密の窓(Hidden Area)は、自分は知っているが他者には見せていない自分。あえて言っていない考えや事情。ここは自己開示によって開放の窓に移っていきます。
- 未知の窓(Unknown Area)は、自分も他者もまだ知らない自分です。まだ引き出されていない潜在的な能力や、本人も自覚したことのない反応。新しい経験や挑戦を通じて少しずつ見えてきます。
このモデルが示すのは、成長とは「開放の窓を広げること」だという見立てと、開放の窓を広げる2つの道です。自分から打ち明けて秘密の窓を減らすことと、フィードバックを受け取って盲点の窓を減らすこと。前者は自分の努力で進められます。問題は後者です。コミュニケーションの癖は盲点の窓にあり、この窓は他者からのフィードバックでしか開きません。
1on1で得られるフィードバックは、1人分だけです。複数の同僚が自然に返してくれる反応の量にはかないません。チームの状態が人と人との間のプロセスに現れるのだとすれば、1on1だけの支援は、盲点の窓を開けない場所で支援をしていることになります。

なぜ、支援は1on1に偏るのか?
1on1に偏ること自体には、合理的な理由があります。まず、制度にしやすい。カレンダーに定期予定として置け、人事ツールが記録に対応し、実施率という数字で測れます。次に、密室であることの安心感です。うまくいかなくても他のメンバーには見えず、支援する側もされる側も失敗が表面化しません。一方、グループの場を支援に使うには、場の設計と観察の準備が必要で、失敗も全員の前で起きます。
その結果、「支援している」という実感は1on1に集まり、関係性のテーマ、つまりチームの中でしか扱えないものが宙に浮きます。
繰り返しになりますが、1on1の価値はかけがえのないものです。ただし、1on1では扱えないテーマまで1on1に流れ込んでいることは問題です。
グループでの支援では何が起きるのか?
グループの相互作用そのものを支援に使う方法は、古くから体系化されています。
グループアプローチとは:グループ内で起きるメンバー同士の相互作用そのものを、自己理解や成長の支援に活用する方法の総称。
その源流は、1940年代にクルト・レヴィンらが始めたTグループ(相互作用を通じて自己理解と他者理解を深めるトレーニンググループ)にあります。そこからロジャーズのエンカウンターグループなど多くの発展形があり、キャリア支援の分野でもグループアプローチとして実践されています。断酒を支え合う自助グループのように、専門家ではなくメンバー同士の力で目的を達成する形も広く知られています。
ここで大事なのは、「グループ」を研修やカウンセリングの場に限定しないことです。プロジェクトチームも、目的をもって集められたれっきとしたグループです。つまり、あなたのチームはすでに支援の場になり得る器を持っています。そこで起きることは、大きく3つに整理できます。
他者という鏡が増える
自分以外の参加者の言動を見ることで、自己理解が多面的になります。「同じ場面であの人はああ動くのか」という比較の材料は、1対1の対話では手に入りません。たとえば、若手がふりかえりの場で、ベテランが「ここが分かっていませんでした」と口にする姿を見る。「分からないと言っていい」ということは、1on1で百回説明するより、一度目撃する方が伝わります。
コミュニケーションの癖に気づける
他の参加者との相互のやりとりの中で、自分の話し方・聴き方のパターンが浮かび上がります。自分の発言のあとだけ沈黙が続く。誰かの発言を引き取って要約したつもりが、相手の表情が曇る。こうした小さな信号は、やりとりが実際に起きる場でしか受け取れません。そして癖は、指摘されて直すより、場の中で自分で気づいたときの方がはるかに変わりやすいものです。
新しい行動をその場で試せる
気づきをもとに、これまでと違う行動をグループ内で試し、相手の反応という結果をすぐ確かめられます。いつも最後に発言する人が、最初に口を開いてみる。仕切りがちな人が、あえて他の人に進行を渡してみる。1on1で「今度からこうしてみます」と宣言するのと、安全な場で実際にやってみて手応えを得るのとでは、定着がまるで違います。
支える側にとってのメリットもあります。まず単純に、複数のメンバーへの支援が一度にできます。そして、メンバー同士の相互支援が生まれると、支援がマネージャー1人に依存しなくなります。1on1だけの支援体制では、マネージャーが全員の支え手であり、ボトルネックであり、その人が異動すれば支援ごと消えます。グループの中に支え合いが育てば、支援はチームの文化として残ります。
ただし、グループ支援は万能ではありません。一人ひとりの個別性やペースに合わせることは難しく、全員に発言機会が保障されるわけでもありません。何も得られない参加者は少ないとされる一方で、満足度には差が出ます。だからこそ、1on1を置き換えるのではなく、組み合わせるのです。
1on1とグループ、どう使い分けるか?
取り扱いたいテーマが本人の中にあるのか、人と人との間にあるのか、を判断軸にします。
- 1on1で扱う:評価や処遇、健康、家庭の事情、キャリアの個人的な希望。個別性と機密性が高く、本人の中にあるテーマ
- グループで扱う:コミュニケーションの癖、役割分担のもやもや、チームの暗黙のルールや雰囲気。関係性の中にしか現れないテーマ
実際には、1つのテーマの中に両方が混ざっていることもあります。たとえば「キャリアの迷い」は個人的なテーマに見えますが、分解すると「自分はこの先どうしたいか」という本人の中の部分と、「このチームで自分は何を期待されているのか」という関係の中の部分が含まれています。前者は1on1で深め、後者はチームの場で期待をすり合わせる。テーマごと振り分けるのではなく、分解してそれぞれの場に渡すという発想です。
注意したいのは、この2つを混ぜてしまう失敗です。1on1で聞いた個人の不満を、良かれと思って「みんなで話し合おう」とグループに持ち込む。名前を伏せても文脈で誰の話か分かってしまい、打ち明けた本人の安全が壊れます。グループで扱うのはテーマであって、特定の誰かの発言ではありません。
それでは、どこから始めましょうか。
- すでにある場を見立て直す:ふりかえり、勉強会、ペア作業。新しい会議を増やすのではなく、既存の場を「メンバーが互いの鏡になれる場」として捉え直します
- 発言の設計を少し足す:順番に全員が一言ずつ話す、まずペアで話してから全体に共有する、など。発言機会は放っておくと必ず偏ります
- プロセスを観察する:誰の発言が拾われ、どう決まっていくか。場を支援に使うなら、場で起きていることを見る目が支援者の道具になります
まとめ
1on1とグループ支援は、どちらかを選ぶものではなく、扱えるテーマが違う補完関係にあります。本人の中にあるテーマは1on1へ、人と人との間にあるテーマはグループへ。そして関係の中のテーマをグループで扱えるようになるほど、1on1は本来得意な個別のテーマに集中でき、双方の質が上がります。
次の1on1で重いテーマが出てきたら、一度だけ自問してみてください。「これは、この部屋の中だけで扱うべきものだろうか」。その問い1つが、支援の設計を変える入り口になります。
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