「たまたま」を設計する:計画的偶発性と、偶然に強いチームづくり

コーチングを学び始めたのも、エンジニアになったのも、計画ではなく「たまたま」でした。クランボルツの計画的偶発性理論によれば、偶然はただの運ではありません。メンバーに「いい偶然」が起きる確率を、リーダーはどう上げられるのか。越境・余白・誘いの設計を考えます。

私がコーチングを学び始めたのは、計画したからではありません。たまたまコーチングセッションをしてもらう機会があり、その時に体験した、自分の中に答えがあり、それを探っていく感覚がただ面白かった。その「たまたま」が、入り口になりました。

振り返れば、私の転機はいつも予期しない偶然でした。ソフトウェアエンジニアになったのも、たまたま同居人がエンジニアだったからです。

メンバーにそんな「偶然」が起きる確率を、リーダーは上げられるのでしょうか

上げられます。偶然を待つのではなく設計する、それが変化の速い時代の組織変革とチームづくりの静かなカギになります。本記事では、計画的偶発性理論をもとにその方法を考えます。


【この記事の要点】

  • 結論:キャリアの多くは予期しない偶然から生まれます。偶然は運任せにするものではなく、リーダーが「起きる余地」を設計できるものです。
  • ポイント①:クランボルツ(1999)は、キャリアの大半は予期しない偶然で形づくられると説き、偶然を活かす5つの姿勢(好奇心・持続性・柔軟性・楽観性・冒険心)を挙げました。
  • ポイント②:その姿勢は本人の性格で決まるのではなく、まわりの環境に大きく左右されます。だからこそリーダーの出番があります。
  • ポイント③:明日からできるのは、メンバーをひとり、いつもの担当の外にそっと誘ってみることです。

大事なことほど、計画の外で起きるのはなぜか?

大事なことほど、狙っては起こせません。これは私だけの話ではありません。多くの人が、人生の節目を振り返ると「たまたま」に行き当たります。

たまたま参加した場。たまたま受けた誘い。たまたま隣にいた人。

心理学者のジョン・クランボルツ(John D. Krumboltz)は、この「たまたま」を正面から研究しました。そして1999年、人のキャリアの多くは、綿密な計画ではなく、予期しない偶然の出来事から形づくられると説きます。

キャリアの8割は予期しない偶然から生まれる、とさえ言われるそうです。

私たちはこれを「運が良かった」で片づけます。けれど、クランボルツの面白さはその先にありました。

偶然は、ただ待つものではない。行動次第で、起きる確率を上げられる。

そう考えたのです。

「運が良かった」で終わらせると、その幸運は二度と再現できません。次の幸運を、ただ待つしかなくなります。けれど「偶然は起こせる」と捉え直した瞬間、打つ手が見えてきます。

計画的偶発性とは何か?

計画的偶発性(Planned Happenstance)とは:キャリアは予期しない偶然に大きく左右される。だからこそ、その偶然を意図的に呼び込み、活かしていこうとする考え方です(クランボルツ, 1999)。

「計画的」なのに「偶発」。矛盾した言葉に見えます。

ここにこの理論の芯があります。偶然そのものは、完全には計画できません。でも、偶然が起きやすい行動を選ぶことはできる。そして、起きた偶然を逃さず活かすこともできる。

クランボルツは、偶然を活かせる人に共通する5つの姿勢を挙げました。

  • 好奇心:新しい学びの機会を、たえず探すこと
  • 持続性:うまくいかなくても、続けること
  • 柔軟性:こだわりを手放し、変化を受け入れること
  • 楽観性:新しい機会を「実現できる」と前向きに捉えること
  • 冒険心:結果が不確実でも、一歩踏み出すこと

こうした姿勢の人のところに、「いい偶然」は結果として多く訪れます。

あなたは、いくつ当てはまるでしょうか。そして、あなたのチームのメンバーはどうですか?

ここで、リーダーの出番です。この5つは、本人の性格で片づく話ではありません。失敗が責められる場では、冒険心は縮みます。試したことが一度きりの評価で値踏みされる場では、好奇心は顔を出しません。逆に、寄り道や試行錯誤が歓迎される場でなら、同じ人でも一歩を踏み出しやすくなります。好奇心や冒険心が芽を出すかどうかは、まわりの環境に大きく左右されるのです。だとすれば、リーダーにできることがあります。メンバーに偶然が訪れ、その姿勢が育つ「場」を意図して用意することです。

リーダーは「いい偶然」をどう設計するのか?

偶然を「設計する」とは、何をすることでしょうか。3つの方向で考えてみます。

  1. 越境に誘ってみる:いつもの担当の外へ誘うことです。
    以前、私は自分の役割の枠を越えて新しいロールに誘ってもらったことがあります。引き受けてみると、それまで接点のなかった人や問いに出会い、思いがけない学びがありました。これは偶然を待った結果ではなく、誰かが越境のきっかけを差し出してくれた結果です。
    リーダーは、こうした入り口を用意できます。
  2. 余白を残す:予定をタスクで埋めきらないことです。
    すべての時間が埋まっていると、寄り道も、雑談から生まれる発見も起きません。偶然には入り込むすき間が要ります。
  3. 背中ではなく扉を:不確実な挑戦に誘うことです。ただし命じるのではなく、断ってもいい誘いとして。
    「興味があれば、やってみない?」のひと言が、本人の好奇心と冒険心に火をつけます。

よくやってしまいがちな取り違えを2つご紹介します。
ひとつは、「成長のためだ」と越境を"割り当てて"しまうこと。義務になった瞬間に、好奇心はしぼみます。
もうひとつは逆に、何もせず「偶然に任せよう」と放っておくこと。偶然は、放置では起きません。設計とは、強制と放任のあいだにある、そっとした働きかけのことです。

偶然を、個人の幸運から組織の力へ

ここまでは、リーダー個人ができる関わりの話でした。偶然が生まれる仕組みを組織の形そのものに織り込むこともできます。

たとえば、yamanecoが採用しているHolacracy組織では役割が肩書きに固定されず、人は自分の担当を越えてロールを引き受けます。越境が「特別なこと」ではなく、日常の運用に最初から組み込まれています。このような組織ではいい偶然は「たまたま良いリーダーがいたから」ではなく、「組織がそういう形だから」起こります。

yamanecoのHolacracy実践の試行錯誤は、評価制度を作り直し続けてわかった、自己組織化組織の「破滅の振り子」で詳しく書いています。

一人のリーダーの心がけに頼るうちは、その人がいなくなれば消えてしまいます。偶然の起きやすさを構造に埋め込むことができたとき、それは誰かに依存しない、組織そのものの力になります。一人の工夫で終わらせず、仕組みとして組織に根づかせる、それが偶然に強い組織への変革です。

まとめ

偶然は運ではありません。しかし、完全にコントロールできるものでもありません。リーダーはその「いい偶然」が起きる余地を広げることができます。

越境の入り口、時間の余白、断れる誘い、どれも小さな働きかけです。

明日、メンバーをひとりいつもの担当の外にそっと誘ってみてください。その小さな越境が、思いがけない転機の入り口になるかもしれません。


偶然が生まれる余地をチーム全体で続く仕組みにしていくことは一人では難しいものです。どこに越境の入り口をつくるか、どんな役割の設計が効くかは、組織の形によって変わります。

チームに「いい偶然」が起きる組織づくりを考えてみたいと感じたら、その設計を一緒に整理してみませんか? 無料相談からご相談をお待ちしています。

メンバーの「やれる感」を育てる関わりは「あなたならできる」では、人は動かないにまとめています。あわせてどうぞ。

Kasumi Nakano

Kasumi Nakano

Software Engineer