はじめに:評価制度が「終わらない」と気づいた瞬間
自己組織化的な働き方を志向するyamanecoでは、ピア評価を含む新しい評価制度「Tier change process」を試行錯誤してきました。これまで2回サイクルを回し、3回目を準備しているところです。2回とも、何かが機能しませんでした。
最初は「設計が下手だからだ」と思っていました。1回目の反省を踏まえて2回目を設計し、2回目の反省を踏まえて3回目を設計する。進めているはずなのに、毎回新しい問題が顔を出します。
3回目の設計を考えているとき、ふと気づきました。もしかして、これは終わらないのではないか。終わらない仕事として持つことが、評価制度との正しい付き合い方なのではないか、と。
これは、その気づきに至るまでの、試行錯誤の記録です。
なぜピア評価制度を作り直すことになったか
弊社は7名の小さなHolacracy組織で、自己組織化的な働き方を志向しています。一人の経営者がすべての評価権限と責任を握る従来型の制度は、私たちの実態に合っていませんでした。ピアの目線を入れ、もっと開かれた評価のかたちにしたい。
これまでyamanecoには、人事評価が制度として存在していませんでした。Holacracy導入以前は、経営者一人が評価権限と責任のすべてを抱えていた状態です。
このプロジェクトの出発点にあったのは、人事評価という仕事を特定の個人に属人化させず、RoleのAccountabilityとして組織に分散させたいという考えでした。Accountabilityとして明確に定義できてはじめて、その仕事は仕組みやプロセスに委ねていけるものになります。さらにピアの関与を加えることで、より自律分散的な評価のかたちに近づけるのではないか、そんな期待もありました。
Tierという階層の概念も、ちょうどこのプロジェクトを始めた頃に、期待値の指標として整えられたばかりでした。そのTierの階層を残しつつ、判定にピアの関与を含める。この基本方針で設計したシステムを「Tier change process」と名付けました。
方向性は明確でした。問題は、具体的な設計です。そして私たちは、この「具体的な設計」のところで、何度もつまずくことになります。

1回目:抽象的な評価基準が招いた判断不能
最初のサイクルは、こう設計しました。
昇格したい人が自分で記述式の自己PRを書き、それを複数のピアが評価します。その後、シニアメンバーが最終確認をして結論を出す、という流れです。
理屈の上では悪くない設計に見えました。本人は同僚サポーターの助けを借りながら自らの主張を言語化できるし、ピアの目線が入り、経験者の判断もある。
ところが回してみると、致命的な問題があったのです。
Tierの基準が抽象的すぎて、満たしているかどうか判断できなかったのです。「リーダーシップを発揮している」「主体的に動いている」といった抽象的な記述に対して、自己PRと日頃の行動から「Yes/No」を判定しなければなりません。評価する側は、毎回深く悩むことになりました。
もう一つの問題も浮上しました。もともと一人の経営者が全てを判断して責任を負う構造から移行しようとしていた中で、Tierの基準は明文化したものの、それが具体的な振る舞いに落とし込めていなかったのです。昇格を目指すメンバーは「何ができるようになればよいのか」がわからず、評価する側も「この振る舞いがどのTierの基準を満たしているのか」の判断が一致しないことがありました。
1回目のサイクルが教えてくれたのは、シンプルなことでした。基準を具体化しないと、評価は回らない。
2回目:基準を具体化したら、自己評価のバラつきが顕在化
1回目の反省を踏まえて、2回目はこう設計しました。
各Tierの貢献を、具体的なシナリオに落としました。「こういう行動ができている」「こういう成果を出している」という観察可能な記述にしました。そして、各自がそのシナリオに対して自己評価を行い、既存の評価者が最終チェックする、という流れです。
1回目を振り返ったとき、「Tier基準がまだ、ピアに判断を渡せるほど洗練されていない」という声がありました。だから2回目は、既存の評価者を残しながら、基準そのものを育てていくサイクルとして位置づけました。最終的にピアに委ねられるレベルまで磨いていく、その手前のステップという位置づけです。
これまで抽象的だった各Tierにおける期待する振る舞いを、行動レベルに落とし込むことで、Tier基準が具体化します。Tierという概念を意識せずに「自分はこの行動ができているか、できていないか」という視点だけで評価できれば、昇格しようとする人も増えるのではないか 、そんな期待もありました。
抽象から具体へ。判定不能から判定可能へ。これで評価は機能するはずでした。
ところが、別の問題が顔を出しました。
評価の厳しさが、人によって全然違うのです。同じシナリオを読んでも、自分に厳しい人は「まだまだ満たしていない」とつけ、現在のTierよりも低い評価を自分につけてしまうのです。同じ貢献レベルの2人が、自己評価では大きく違う点数になりました。
これは、自己評価方式の構造的な弱点です。シナリオの具体化は前進だったのですが、その具体的なシナリオを「自分が満たしているかどうか」を判断する基準は、結局のところ各自の頭の中にあったのです。
ここで気づいたことがあります。1回目の解決策が、2回目の問題を生み出していたのです。基準を具体化したことは正しい判断でした。でも、その具体化された基準を「誰が」「どう」適用するかという次の論点が、新しく開いていったのです。
3回目:行動の評価点の具体化と他己評価への移行
2回目の反省を踏まえて、3回目はこう設計しました。
シナリオに対して、配点の具体例を追記しました。「このような行動なら4点」「このような行動なら7点」という形で、点数と行動の対応を細かく明示します。これで個々の評価のバラつき問題は改善されるはずです。
さらに、自己評価から他己評価に切り替えます。全7名のうち、自分以外の6名から評価を受ける形です。それらの平均を出し、既存の評価者が最終チェックをします。これで、多面的な視点が入るので、評価の納得感も高まるはずです。
ちなみに、この「6名の評価を平均し、既存の評価者が最終チェックする」という設計自体、ひとつの意思決定方法の選択です。チームの意思決定にはいくつかの型があり、案件ごとに使い分けが必要だ、というのは別の記事(チームの意思決定が遅い? 5つの型と使い分けガイド)でも書きました。Tier change process は、評価という1つのテーマの中に、複数の意思決定が入れ子になっている仕組みでもあります。
でも、たぶん、これも完成ではないでしょう。
きっと、6名で評価することの重さ(1人あたり6人分の評価作業)が問題になるかもしれません。 きっと、平均値を出すことで突出した貢献が薄まってしまうこともあります。 きっと、7人という規模でも人間関係の影響が滲むかもしれません。
Lisa Gillの「破滅の振り子(Pendulum of Doom)」が示すもの
3回目の設計を考えながら、私はもう「完成」を期待しなくなっていました。
Tierの基準が十分に洗練されてピア評価を導入できるようになった時、その時にはまた調整が入るだろう、と予測しました。それでもいい、4回目があるという前提で、3回目を回す。そう構えることで、ようやく前に進めるようになった気がします。
ここまでの試行錯誤を、自分なりに整理しようとしていたとき、Lisa Gillという自己組織化のコーチが書いた記事に出会いました。「The Pendulum of Doom(破滅の振り子)」という概念です。
Lisa Gill氏の議論はこうです。組織が伝統的なヒエラルキーから離れようとすると、しばしば真逆の極に振り切れて、そこで固まってしまう。「あれかこれか」の二元論に陥った瞬間、組織は機能不全を起こす、と。
そして彼女は、Barry JohnsonのPolarity Approachを引用しながら、こう提案します。世の中の難題には2種類ある。解くべき問題と、マネジするべき緊張(polarity)だ。両者を混同すると、解けないものを解こうとして消耗する。
これを読んだとき、3サイクルの試行錯誤の見え方が変わりました。
私たちが行き来していたのは、「解くべき問題」ではなかったのではないか。むしろ、いくつかのマネジメントするべき緊張だったのではないか、と思えてきたのです。
- 抽象 ⇄ 具体: 1回目は抽象すぎて判断できませんでした。2回目は具体化しましたが、解釈の余地は残りました。どちらにも一長一短があります
- 自己評価 ⇄ 他己評価: 自己評価は本人の言語化を促しますが、バラつきが出ます。他己評価はバラつきを抑えますが、本人の物語が薄まります
- シンプルさ ⇄ 公正さ: シンプルにしようとすると公正さを欠き、公正さを追求すると複雑になります
これらは、どちらか一方に決着をつければ解決する問題ではありませんでした。両方を抱えながら、状況に応じてバランスを取り続ける緊張でした。
これまでの試行錯誤を、Lisa Gill氏のレンズで読み直すと、こう見えてきます。私たちは失敗を重ねていたのではなく、振り子の両極を行き来しながら、均衡点を探っていたのです。1回目は抽象側に、2回目は具体側に振れました。3回目は他己評価側に振れます。それぞれの振れは、その時点での妥当な判断であり、同時に次のサイクルの種を蒔くような動きでもありました。

評価制度は「完成品」ではなく「動詞」とする
ここで評価制度は完成品(名詞)ではなく、進行形のプロセス(動詞)として持つことにしました。このことで、いくつかのことが変わりました。
第一に、各サイクルの結果を「設計の失敗」ではなく「サイクルの学び」として読めるようになりました。1回目で抽象基準の限界を学び、2回目で自己評価の限界を学んだ。これは失敗の連続ではなく、組織として評価のリテラシーを獲得していくプロセスでした。
第二に、「これが最終版」と宣言する誘惑から解放されました。「完成した」と言える瞬間は、強い誘惑です。労力をかけて作り上げたものを、これで安定運用できる、と思いたい。でも、その宣言は、次のサイクルで起きる「想定外の問題」を、敗北として体験させてしまいます。最終版を宣言しないことで、次の問題を学びとして迎え入れられるようになりました。
第三に、振り返りの仕組みを、最初から設計に組み込めるようになりました。サイクルの終わりに必ず振り返り、次のサイクルの設計に反映する。この「サイクルを回し続けるメタ構造」だけは固定する、と決めました。
完成させないために、何を変えないか
「完成させない」と言うと、何もかも流動的に聞こえるかもしれません。毎回違うことをやる気まぐれな組織のように。
でも実は逆で、可変なものを可変なまま運用するためには、不変な枠組みが必要になります。
yamanecoにとっての不変な枠組みは、たとえばこういうものです。
- サイクルの終わりに必ず振り返りを行い、次のサイクル設計に反映する、という規律
- 出てきた問題を「設計者の落ち度」ではなく「組織の学び」として扱う、という文化
- Tier基準を、ピアに委ねられるレベルへと磨き続ける、という方向性
これらは変えません。これらが変わらないからこそ、その上に乗る「具体的な評価フォームや配点ルール」を、毎サイクル更新できるのです。
Lisa Gill氏が言う「ボスはいないが、リーダーフル(bossless but leaderful)」という発想と、同じ構造をしているように思います。リーダーシップというポジションは固定しない。でも、リーダーシップが流れる場と文化は固定する。可変と不変のレイヤーを分けることで、組織は健やかに動き続けられるのではないでしょうか。
おわりに:振り子と一緒に動き続ける
3回目のサイクルがどうなるかは、まだわかりません。たぶん、想定していなかった問題が出てくるでしょう。出たら、それを4回目の設計の素材にします。
評価制度を持つということは、たぶんこういうことなのだと、今は思っています。完成しない仕事を、完成しないまま続けられる組織。それ自体が、ひとつの完成のかたちなのかもしれません。
「次のサイクルがある」という前提で、今のサイクルを回してみると、完成させようとする力みが抜け、出てくる問題が違って見えます。問題は敵ではなく、次の設計の素材になる。
振り子と一緒に動きながら、どこに均衡点があるかを探り続ける。それが、評価制度との健全な付き合い方なのだと、私は今、考えています。
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Tactical Meetingのエッセンスを、一般的な会議改善に応用する観点。
参考
- Lisa Gill, "The Pendulum of Doom: How the either-or trap limits the possibilities of new ways of working," Reimagining working and being together (Substack), 2024年7月30日 https://reimaginaire.substack.com/p/the-pendulum-of-doom
- Lisa Gill 公式サイト: https://www.reimaginaire.com (自己組織化組織のコーチ・トレーナー、Tuff Leadership Training認定トレーナー、ポッドキャスト「Leadermorphosis」ホスト、Thinkers50 Radar 2020選出)
- Karin Tenelius & Lisa Gill『Moose Heads on the Table: Stories About Self-Managing Organisations from Sweden』2020年
- Barry Johnson, Polarity Management: Identifying and Managing Unsolvable Problems, 1992年
- Frederic Laloux『Reinventing Organizations』(邦訳『ティール組織』英治出版、2018年)



