「あなたならできる」と背中を押されても、最初の一歩が踏み出せない、そんな経験はありませんか。やる意味は分かっています。頭では、やるべきだと分かっています。それなのに、その一歩が、どうしても出てきません。
私の意志が弱いせいなのでしょうか。
いいえ。足りていないのは、『自分にはやれる』という見込み、すなわち自己効力感です。本記事では、その「できる気がする」をどう育てるかを解いていきます。
【この記事の要点】
- 結論:自己効力感(「自分にはやれる」という見込み)は、励まし=言語的説得では育ちません。最も効くのは、小さく「やり遂げた」という達成体験です。
- ポイント①:バンデューラ(1977)は自己効力感の源泉を4つに整理し、達成体験を最も強い源泉としました。
- ポイント②:メンバーが動かないとき、足りないのは「やる意味(結果期待)」ではなく「やれる感(効力期待)」であることが多いです。
- ポイント③:明日からできるのは、目標を「確実にやり切れる」サイズにひとつ割ることです。
なぜ励ましても意義を伝えても動けないのか?
その足踏みは、あなただけのものではありません。チームの中で人を支える立場になると、「やらないといけませんね」——そう言いながら、最初の一歩を踏み出せないメンバーに、何度も出会います。
そんなとき、支える側はたいてい2つの手を打ちます。ひとつは「あなたならできる」と励ますこと。もうひとつは、「なぜ重要なのか」「やればどんな成果につながるのか」と、意義を伝えることです。けれど、励ましても意義を重ねても、最初の一歩は出てきません。
なぜでしょうか。心理学者のアルバート・バンデューラ(Albert Bandura)は、人の行動には2つの期待が関わると考えました。
結果期待:「やれば成果が出る」という見込み
効力期待:「自分にはやれる」という見込み
動けない人に足りないのは、たいてい結果期待ではなく、効力期待のほうです。やる意味は分かっていても、「自分にはやれる」という実感が湧かないのです。
だとすれば、効力期待に働きかける「励まし」は、狙いとしては正しいはずです。それでも効かないのは、なぜでしょうか。——効力期待は、言葉だけでは動かないからです。「あなたならできる」と何度言われても、「やれる感」は、言葉の外でしか育ちません。
しかも効力期待は、課題ごとに違います。プレゼンは得意でも、数字の管理になると途端に怯む——そんなふうに、領域ごとに高さが変わります。だから、ふだん有能に見える人が、ある一点でだけ足を止めることがあります。性格の問題でも、自信のなさ全般でもありません。その課題に対する「やれる感」が、まだ育っていないだけなのです。
では、その「やれる感」、すなわち自己効力感は、どうすれば育つのでしょうか。手がかりは、自己効力感そのものの仕組みにあります。
自己効力感とは何か?:4つの源泉
そもそも自己効力感とは何なのでしょうか?
自己効力感とは:ある状況で必要な行動を、自分はうまく遂行できるという主観的な見込みのことです。能力そのものではなく、"発揮できるという確信"を指します(バンデューラ)。
バンデューラは1977年の論文で、この自己効力感が4つの源泉から育つと示しました。示されてから半世紀近く経つ今も、この整理は人を育てる現場で古びていません。
達成体験:自分で実際にやり遂げた経験
代理体験:自分と似た誰かが成功する様子を見ること
言語的説得:「あなたならできる」と言葉で励まされること
生理的・情動的喚起:緊張や動悸といった身体の状態を、どう受け止めるか

ここに、前章の謎を解く鍵があります。私たちが最初に手を伸ばしがちな「励まし」=言語的説得は、最も強い達成体験には遠く及びません。
一方、最も強い達成体験は、経験からしか手に入りません。「できる気がする」は、語りかけるものではなく、積み上げるものなのです。
「できる気がする」をどう育てるか?
では、チームのメンバーを支える立場として、何ができるのでしょうか。4つの源泉に沿って、関わり方を整理してみます。
- 小さくやり遂げる経験を、一緒に設計する(達成体験)。目標を「確実に達成できる大きさ」まで割り、「やり切った」を積み重ねます。
- 少し先を行く人の歩みを見せる(代理体験)。完璧なロールモデルより、「半年前の本人」に近い人の事例のほうが効きます。
- 言葉は"具体的な事実"とセットにする(言語的説得)。「すごいね」ではなく「あの場面で、こう動けていたね」と伝えます。
- 緊張の意味づけを、変える(情緒的喚起)。不安な高鳴りを「準備できているサイン」と読み替える手伝いをします。
ここで、やりがちな間違いを一つ。良かれと思って「もっと自信を持って」と繰り返したり、いきなり高い目標を手渡したりすることです。達成体験が伴わなければ、励ましはかえってプレッシャーに変わります。順番が、逆なのです。
まとめ
自己効力感は、言葉ではなく、経験の設計で育ちます。「あなたならできる」と伝える前に、「やり切れた」と感じられる小さな一歩を一緒に用意すること。それが、メンバーの「できる気がする」を育てる近道です。明日、チームの誰かの——あるいはあなた自身の——目標を、確実にやり切れるサイズにひとつ、割ってみてください。
とはいえ、自分の目標を「やり切れる小ささ」に割るのは、自分のことだと案外むずかしいものです。代理体験も言語的説得も、誰かがいて初めて働くからです。そして、それをチーム全体で続く文化にするには、心理的安全性や小さな成功が見える仕組みなど、意図した設計が要ります。
チームメンバーの"できる気がする"を引き出したい、最初の一歩を支えたいと感じているなら、その関わり方を一緒に整理してみませんか? 無料相談からご相談をお待ちしています。
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