ビュートゾルフを訪ねて──信頼を基盤にスケールする組織をめぐって

Corporate Rebels は世界各地のローカル Rebel Cell を通じて、革新的な職場実践を紹介する活動を行っています。今回はRebel Cell Japanがオランダにあるビュートゾルフを訪問し、CEOのThijs de Blokをインタビューしてきました。

Corporate Rebelsのローカルコミュニティ Rebel Cell Japan として、アムステルダムのBuurtzorg(ビュートゾルフ)を訪問しました。『Reinventing Organizations』(日本語訳:ティール組織)で世界に知られるようになったあの組織は、10年経った今、どうなっているのか。創設者の息子でありCEOのThijs de Blok氏と、創設初期からアムステルダムで働く看護師Sjootje氏に話を聞きました。


ビュートゾルフとは

ビュートゾルフ(オランダ語で「地域のケア」)は、2006年にオランダで設立された在宅ケア組織だ。創設者Jos de Blok氏が4人の看護師と1チームで始め、今では1000チーム、15000人以上の看護師を擁する。

特徴は徹底した自主経営にある。12人以下のチームが、採用、スケジューリング、予算管理をすべて自分たちで行う。本部には23人の地域コーチと48人のバックオフィススタッフしかいない。管理職は存在しない。


「同意できなくてもいい、正しい質問をしなさい」

創設者Jos de Blokの息子であるThijs氏は看護師の両親のもとで育った。子どもの頃から言われ続けた言葉がある。

「同意できなくてもいい。でも、正しい質問をしなさい」

学校では難しい質問ばかりする子どもだった。先生には煙たがられた。でも、その姿勢がビュートゾルフの道徳的原則と深く結びついていると、彼は振り返る。


信頼には「周りの人たちの名前、顔と人生を知る」ことが必要不可欠

Thijs氏は、自主経営の本質をこう表現した。

「全員の名前を知っていて、顔を知っていて、その人の人生を知っているなら、信頼することができる。一方、他人の評価に頼らなければならなくなった瞬間、難しくなる。」

だから12人という上限がある。だから分散型にこだわる。チームが互いを信頼していれば、外から誰かが口を出す必要はない。

理論としての「自主経営」は知っていた。でも、その根拠が「名前と顔と人生」というシンプルな人間関係の原則だったことに、ハッとさせられた。


日本での経験も語ってくれた。あるチームの生産性が20-25%と極端に低かった。オランダでは60%が目安だ。原因を調べると、1日に3回もミーティングをしていた。

「朝、昼、夕方。10-11人で集まって、主な議題は『どうやって生産性を上げるか』だった」

Thijs氏は言った。「そのミーティングをやめたらどうですか」

2週間後、生産性は倍増した。

彼らはキャリアの初期に「最も重要なのはコントロールすること」と教え込まれていた。マネージャーがいなくなっても、お互いを監視し合う習慣は残っていた。自主経営の「形」を導入しても、「コントロールしたい」というマインドセットが残っていれば、何も変わらない。


チームの分裂と再統合

18年間アムステルダムでビュートゾルフの看護師として働いてきたSjoerd氏は、チーム運営の現実を率直に語ってくれた。

最初のチームは順調に成長し、12-13人になった。患者も増え、自転車で30分以上かけて移動することもあった。分割するしかなかった。

「私たちは良いチームだと思っていました。でも、分割の話が始まった途端、今まで見えなかったものが見えてきた」

「彼女があっちに行くなら、私も行きたい」「彼とは一緒に働きたくない」──信頼し合っていたはずのチームに、隠れていた亀裂が表面化した。

「最初の分割は、正直に言って、すべてを間違えました」

ビュートゾルフでは今、高齢化の問題も出てきている。創設初期に40-50代で参加した看護師たちが、退職年齢に近づいている。チームの半数以上が63-66歳というケースもある。12人を超えたら分割するのがルールだが、逆にメンバーが減りすぎたチームは統合しなければならない。

「5年前、10年前に分かれたチームがまた一緒になる。元カレ・元カノと復縁するようなものです。とても難しい」

マネージャーがいないからこそ、チームの人間関係がすべてを左右する。本で読む「自律チーム」の美しさの裏には、こうした泥臭い現実がある。


組織の規模よりもイデオロギーのスケールを

ビュートゾルフは1チームから1000チーム、15000人以上に成長した。しかしThijs氏が最も重視しているのは、組織の規模ではなかった。

「私にとって最も重要なのは、イデオロギーのスケールです」

2009年の調査で、ビュートゾルフの方式は従来より30%コスト削減できることが証明された。最初は競合他社から煙たがられた。しかし今では、オランダの在宅ケア組織の多くがビュートゾルフのやり方を模倣し始めている。

「市場シェアは17%です。でも、業界全体が変わりつつある。それが一番大事なんです」

「存在目的」とは、組織の成長や利益ではなく、世界に対してどんな影響を与えたいかということ。ビュートゾルフの目的は「ビュートゾルフを大きくすること」ではなく、「より良いケアの形を広めること」だった。だから競合が真似しても、喜ぶ。


信頼を壊すのは3秒

最も印象に残ったのは、この言葉だった。

「信頼と自律のシステムを構築するのに何年もかかります。でも、たった一つのコメント、一つの行動で、3秒で壊せる」

ドイツでの失敗を語ってくれた。投資家が300万ユーロを投じて急成長したが、赤字が続いた。投資家は「一度ビュートゾルフを止めて、伝統的なマネジメントで立て直そう」と提案した。

「彼は理解していなかった。セルフマネジメントこそがコスト削減の解決策だということを」

伝統的なマネージャーが入り、レポート提出が義務化された。看護師たちは「これまでやってきたことは十分じゃなかったのか」と感じた。その後マネージャーを外しても、信頼は戻らなかった。

ティール組織の「導入」は、制度を変えれば終わりではない。一度壊れた信頼を取り戻すのは、ゼロから築くより難しい。


18年かけて学んだ「コンセンサス」

Sjoerd氏は2007年、アムステルダムで最初のビュートゾルフチームを立ち上げた一人だ。創設者Jos de Blok氏との最初の契約は、カフェでビールのコースターにサインしたものだった。

18年経った今、自主経営で最も難しかったことを聞いた。

「コンセンサスで意思決定すること。私には5-6年かかりました。自分の意見が通らないことに慣れるのが、本当に難しかった」

急がないこと。決まらなければ2週間後にもう一度話し合うこと。そうやって決めた決定は、結果的にチームにとって良いものになる。それを体感するのに、5年かかった。

本で読む「コンセンサス意思決定」と、実際にそれを身体で覚えるまでの時間は、全く違う。


学ぶべきことではなく、手放すべきこと

ビュートゾルフで働くために何を学ぶべきか。よく聞かれる質問に、Thijs氏はこう答えた。

「それは間違った問いです。学ぶことではなく、今やっていることを"アンラーン"する必要がある」

コントロールしたいという衝動。ルールで縛りたいという習慣。評価されたい、評価したいという欲求。ティール組織への移行とは、新しいスキルの獲得ではなく、古い習慣を手放すプロセスなのかもしれない。

JB Vasseur

JB Vasseur

Founder / Facilitator and Coach / I love cats 😽