Ruben Timmermanを訪ねて──ホラクラシーは「結果を出すため」にやる

Corporate Rebels は世界各地のローカル Rebel Cell を通じて、革新的な職場実践を紹介する活動を行っています。今回はRebel Cell JapanがアムステルダムにてRuben Timmermanを訪問し、ホラクラシーの実践についてインタビューをしてきました。

Rebel Cell Japan として、11月24日にアムステルダムでRuben Timmerman氏を訪問しました。オランダで2番目にホラクラシーを導入した企業Springestの創業者であり、現在は非営利組織でも同じ手法を展開している実践者です。12年間の経験から見えてきた、ホラクラシーの本質について話を聞きました。


ホラクラシーとは

ホラクラシーは、Brian Robertson氏が開発した組織運営のフレームワークだ。従来のマネージャーによる階層構造ではなく、「ロール(役割)」を中心に組織を設計する。意思決定の権限はロールに紐づき、人ではなくロールが仕事を動かす。

明文化された「憲法(Constitution)」に基づいて運営され、ガバナンス・ミーティングとタクティカル・ミーティングという2種類の会議体で組織を進化させていく。

オランダは世界で最もホラクラシーの導入が進んでいる国で、200〜300社が実践しているという。


「ナイスだからじゃない、結果を出したいからだ」

Ruben氏は、ホラクラシーをやる理由をこう言い切った。

「私がホラクラシーをやるのは、良い職場にしたいからじゃない。結果を出したいからだ。自分のポテンシャルを最大限に引き出すため。組織も同じで、同じ人数からより多くの成果を引き出せる」

この言葉が、インタビュー全体を貫いていた。

Springestはテクノロジー・スタートアップとして始まり、ベンチャーキャピタルから資金調達し、急成長した。その過程で、会社そのものより「会社の運営方法」の方が有名になった。「Employer of the Year」を3回受賞し、「Best Learning Organization」にも選ばれた。

「会社の成果より、やり方の方が誇りに思っている」

60人規模でありながら、UberやAirbnbと並んで「Exponential Organizations」のトップ10に入った。それは「良い組織」だったからではなく、「結果を出す組織」だったからだ。


「曖昧さ」のコストを可視化する

なぜホラクラシーが結果につながるのか。Ruben氏の説明はシンプルだった。

「ホラクラシーは問題を早く見せてくれる。問題を引き起こしているわけじゃない」

従来の組織では、戦略と現実のズレが見えにくい。半年経って結果が出ず、そこから「なぜうまくいかなかったのか」を分析する。全員が重要そうな顔をしながら、複雑な問題を分析する。

「でも、その問題は最初から複雑である必要がなかった。明確さがあれば」

ホラクラシーでは、ロールと責任が明文化されている。だから「誰が何をすべきだったか」が曖昧にならない。問題が起きたとき、すぐに見える。早く見えるから、早く対処できる。

彼はこれを「高解像度の現実」と呼んだ。


データで文化をつくる

Springestでは、社員同士の「褒め合い」の回数を計測していた。

「数千社の中で、私たちが最も多くの褒め言葉を送り合っていた」

ホラクラシーにはマネージャーがいない。だから、マネージャーからの評価を待つこともない。代わりに、同僚同士の承認が文化の核になる。

しかし、それを「自然発生」に任せなかった。

「褒め言葉を送ることを義務化するのは、最初は奇妙に感じる。でも、習慣にすれば自然になる。学ぶべきことであって、魔法のように起きることじゃない」

専用のツールを導入し、誰が誰に褒め言葉を送ったかを可視化した。ランキングを公開し、定期的にリマインドを送った。Ruben氏自身も、2週間ごとに「最近褒めていない人は誰か」をAIに要約させている。

「データ駆動のアプローチで文化をつくった」

非営利組織に移った今も、同じ手法を使っている。週次サーベイで「ホラクラシーは自律性を高めているか」「明確さを高めているか」を測定し、91%が「継続したい」と回答している。そのデータをボードに見せる。

「私がホラクラシーオタクだから続けるんじゃない。データが語るから続ける」

ボードとの摩擦──「権限を手放したくない」

現在Ruben氏が直面している最大の課題は、ボード(理事会)との関係だ。

非営利組織では、彼は株主ではない。ボードに雇われている立場だ。Springest時代は最大株主として、自分の権限をシステムに委譲できた。今はそれができない。

先週、ボードとロール・ワークショップを行った。

「彼らは書き出すことは好んだ。でも、細かさは好まなかった」

ボードメンバーは「これが問題だ」とは言える。しかし「では、どう解決するか」を自分で考えることは避けた。

「提案を持ってきてくれ、と言われた。異議があれば言う、と」

ガバナンス・プロセスを簡略化せざるを得なかった。ボードはホラクラシーを「承認」したが、「理解」はしていない。

「もしあなたたちが良いと思うなら、やっていいよ、と言われた」

それでも、小さな実践から始めている。会議のチェックイン、アジェンダ・ビルディング。「ホラクラシーのタクティカル・ミーティングです」とは言わず、「こういうやり方、どうですか」と聞く。

「彼らはチェックインを気に入っている。アジェンダ・ビルディングも気に入っている。でも『ホラクラシー』とは呼びたくない」

名前を呼ばなくても、実践が根付けばいい。Ruben氏はそう割り切っている。


「3分の2は1年以内にやめる」

オランダはホラクラシー先進国だが、導入企業の3分の2は1年以内にやめるという。

「続けるのが難しいから、何かが起きて止まる」

なぜか。Ruben氏は、現在の組織で起きていることを例に説明した。

オペレーション・ディレクターの同僚が、ボードと現場の間で板挟みになっている。ボードの指示と、現場の現実が合わない。彼は「漏斗」のように、両方向からの圧力を受けている。

「これは『シット・アンブレラ』と呼ばれる役割だ。上からの無茶を、下に降ろさないように傘になる」

ホラクラシーを実践するチームと、そうでないボードの間には、常に緊張がある。チームは明確さを求め、ボードは権限を手放したくない。その間に立つ人が疲弊する。

「ホラクラシーがなくても、彼は壊れただろう。ボードが言うことと現実が合わなければ、誰かが壊れる。ホラクラシーはそれを早く見せるだけだ」

日本での課題──「許可を求める」文化

インタビューの後半、Ruben氏は私たちに質問を投げかけた。「日本でホラクラシーが広がらない理由は何だと思うか」

私たちの答えは、「許可を求める」文化だった。

「昨日まで許可が必要だったのに、今日からロールの範囲内で自由に動いていい、と言われても難しい」

Ruben氏は深くうなずいた。

もう一つの課題は、「暗黙のルール」だ。日本では、書かれていないルールを破ると「誰もそんなことしない」と言われる。明確さを求めること自体が、「なぜ当たり前のことを書き出す必要があるのか」という反発を招く。

「興味深い。明確さを求めることが、負担を相手に押し付けることになるのか」

彼は続けた。

「でも、組織が多様になればなるほど、暗黙の了解は通じなくなる。明示的でなければ、全員には伝わらない」

だからこそ、世界はホラクラシー的なシステムに向かわざるを得ない、と彼は考えている。


「予測とコントロール」vs「感知と適応」

インタビューの前週、Ruben氏の組織ではポラリティ・ワークショップを行った。「予測とコントロール(Predict & Control)」と「感知と適応(Sense & Respond)」の対立軸を探るものだ。

参加者を二つのグループに分け、自分の立場の「悪い面」を語らせた。

「予測とコントロールの良い面に気づいてもらいたかった。コントロールできている感覚、しっかりした計画、明確なExcel。それは価値がある」

ホラクラシーの実践者は、「マネジメントは悪だ」と言いがちだ。しかし、マネジメントには良い面もある。産業革命はマネジメントで起きた。明確な戦略、データ駆動の意思決定、はっきりした機能分担──これらは価値がある。

「問題は、悪い面を取り除けるか、良い面を残せるか。ホラクラシーはそれを試みている」

「フレームがあるから創造できる」

Ruben氏がよく使うフレーズがある。

「Creativity through clarity──明確さを通じた創造性」

画家にはキャンバスが必要だ。フレームがあり、素材があり、その中で創造する。組織も同じだ。

ホラクラシーは制約に見える。憲法、ロール、ミーティングのフォーマット。しかし、その制約があるからこそ、人は自由に動ける。

「ロールの範囲内なら、何をしてもいい。禁止されていないことは、すべて許可されている」

それが「結果を出すため」のホラクラシーの本質だった。


訪問を終えて

ホラクラシーは「フラットな組織」「自由な働き方」という文脈で語られることが多い。しかしRuben氏の実践は、徹底してプラグマティックだった。データで測り、ツールで可視化し、結果を出す。

同時に、その厳しさの裏には、人間への信頼がある。明確なフレームを与えれば、人は創造できる。権限を委譲すれば、人は動ける。

「ホラクラシーは問題を早く見せてくれる」

問題を隠さない組織。曖昧さに逃げない組織。それが12年間の実践から見えてきた、ホラクラシーの姿だった。

JB Vasseur

JB Vasseur

Founder / Facilitator and Coach / I love cats 😽